「夏の庭 The Friends」(湯本香樹実)①

「死」を通して「生」を見つめる

「夏の庭 The Friends」(湯本香樹実)新潮文庫

「ぼく」と河辺・山下の3人は、
町外れに暮らす一人のおじいさんを
「観察」し始める。
人の「死」を見届けたいと
思ったからだ。
夏休みに入り、
「ぼく」たちの観察は盛んになるが、
それに反しておじいさんは
日ごとに元気になっていく…。

湯本香樹実の作品のいくつかに
共通するのは「死」というテーマです。
児童文学に
「死」を持ち込まなくても…、
という声が聞こえてきそうですが、
核家族化の進行と
終末医療の発展により、
「死」が日常から
遠ざかってしまった現代だからこそ、
子どもたちにあえて「死」を
提示する意義は大きいといえます。

物語の冒頭、
子どもたちは素朴な疑問を
声に出します。
「自分がいつかは死ぬとか、
 死んだらどうなるんだろうとか、
 そんなことばっかり
 考えてしまうんだ。」

子どもたちの、身のまわりの「死」に
敏感になっている様子が、
作品にはしっかりと描かれています。
飼い犬が寿命を迎えたとき、
「犬は段ボール箱の中に
 入れられていた。
 中を見てはいけないと
 おとうさんが言った。
 ぼくはそうやって、
 いろいろなことを
 見過ごしているような、
 そんな不安に今でも襲われるのだ。」

次第に子どもたちは
「死」の形を捉え始めるのです。
「ぼくがまだ小さい頃、
 死ぬ、というのは
 息をしなくなるということだと
 教えてくれたおじさんがいた。
 それは絶対に、違うはずだ。」

子どもたちのそうした思いは、
台風の日におじいさんが語り始めた
戦争の話によって
さらに深く心に刻まれることになります。

やがて子どもたちは「死」と「生」を
一つのものとして考え始めます。
「歳をとるのは
 楽しいことなのかもしれない。
 歳をとればとるほど、
 思い出は増えるのだから。」

そして直面する本当の「死」。
おじいさんの骨を拾いながら
子どもたちは「死」と
しっかり向かい合っています。
「おじいさんの骨を見て初めて、
 もしかしたらおじいさんが
 生きかえるかもしれないと
 心のどこかで
 思っていたことに気づいた。
 でも、そんなことは
 もうないとわかった今、
 ぼくの心は不思議なほど静かで、
 素直な気持ちに満たされていた。」

もちろん子どもたちは
おじいさんの「生」に
触れることによって
大きく成長しているのですが、
「死」を考えることによって
さらに深く成長しているのです。

「死」を通して「生」を見つめる
児童文学の最高傑作、
中学校1年生の夏の読書に
強く薦めたい一冊です。

(2019.5.1)

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